ロータリー会員がセスナ機で世界を一周し、ポリオ根絶を支援
米国のジョン・オッケンフェルスさん(アイオワシティ AM. ロータリークラブ会員)とピーター・ティーエンさん(シーダーラピッズ・ウェスト・ロータリークラブ会員)は、エンジン1基のセスナ機を操縦して3カ月間で地球を一周し、ポリオ根絶のための募金と認識向上を行いました。しかし、その実現までには実に3年の月日がかかりました。
このチャリティ飛行のアイデアが生まれたのは、2018年。パイロット歴50年以上のティーエンさんは、自身の小型飛行機で世界一周できるかとふと考え、妻ジャネットさんにその話をしてみました。そのうちに夫の関心も薄れるだろうと考えたジャネットさんは、とりあえず実現が可能かどうか検討してみることを勧めました。
数か月後、入念な検討をしたティーエンさんは、世界一周は可能という結論に達し、決行を決意。これに驚いたジャネットさんは、違うアプローチで夫の気を変えさせようとしました。「一緒に行ってくれるクレイジーな人を見つけられたら、行ってもいいわ」
しかし、またも驚いたことに、ティーエンさんはそのような人を見つけました。それが、ジャネットさんの従兄、オッケンフェルスさんでした。飛行機を3機所有するオッケンフェルスさんは、(ティーエンさんいわく)「クレイジー」という点で条件を満たしていました。
二人は会い、長時間、世界一周飛行について話しました。そして別れ際、ティーエンさんはオッケンフェルスさんにこう言いました。「なんなら君も一緒に来るかい?」
そのときのことを、オッケンフェルスさんはこう振り返ります。「内なる少年がよみがえり、『これは面白くなるぞ』と心の中で飛び跳ねました。でも、人生で多少の経験を積んだ大人として、この挑戦が何を意味するかわかっていましたから、とりあえず『考えてみるよ』とだけ答えました」。承諾する前に妻デブさんに話したいという思いもありました。
数週間後、オッケンフェルスさんは飛行への同乗を決意していたものの、まだデブさんには話せずにいました。そんな時、ある店で夫婦で食事をしていたとき、偶然ジャネットさんがやってきました。「あと10分もすれば、世界一周飛行の計画が妻にばれる」。オッケンフェルスさんはそう思いました。「しかし妻は、すぐにサポートしてくれました。実際、その後も二人の妻たちは献身的に私たちを支えてくれたんです」
実行計画を立て始めたティーエンさんとオッケンフェルスさんは、この飛行をチャリティの目的で行うことを決めました。ティーエンさんはこう言います。「人道的・慈善的な目的を持つことが、私たちにとっては大切でした。だから、ポリオ根絶のために飛ぶことにしたんです」。最初から費用(約10万ドル)は自腹を切るつもりだったため、募金の全収益はポリオ根絶のためにロータリー財団に寄付することにしました。
計画が整い、2020年3月に出発することを決定。しかし、出発まであと10日というとき、新型コロナウイルスで世界が閉鎖されました。すぐに平常に戻ると見込んだ二人は出発を秋まで延期しましたが、それも叶わず何度か延期を余儀なくされました。
2022年、ようやく出発と思った矢先、ロシアがウクライナに侵攻。北ルートでロシア上空を飛行する予定でしたが、それができなくなりました。もっと難しい南ルートでの世界一周飛行は「危険すぎた」とオッケンフェルスさんは言います。「距離が長く、燃料の補給もできません。実行は不可能に思われました」。それでも二人はあきらめませんでした。
当初、ティーエンさんが所有するパイパー社製の小型機で飛ぶ予定でしたが、「話し合った結果、もっと大きいセスナ210が必要だということになりました」。二人はそれぞれ所有する飛行機を売却し、新しいセスナ機を購入。その後の数か月間、世界一周に耐えられるようセスナ機に調整を加え、必要な場合に燃料を補給するための手配も行いました。
決行当日の今年5月5日、ポリオ根絶のために(ゲイツ財団からの2倍額の上乗せを含めて)既に100万米ドルを集めたという発表を行った後で、二人はセスナ機に乗り込み、不可能と思われた「クレイジー」な旅に出発しました。ティーエンさんはこう語ります。「この旅の途中でジョンは71歳に、私は70歳になりました。でもまだ心はやんちゃです」
その後の12週間、二人が操縦するセスナは途中37カ所(19カ国)に立ち寄り、困難にも遭遇しました。体調不良によりティーエンさんが一時入院し、オッケンフェルスさんは数日間ソロで飛行しました。さらに、太平洋上を飛行中に電気系統に不具合が生じ(後に修理)、パキスタンのカラチに立ち寄ったときには武装兵士たちに出くわすという緊張の瞬間もありました。「思わずピーターに目をやり、手をあげて降参すべきか、手を振って挨拶すべきか迷いました」とオッケンフェルスさん。「でも実際には、(兵士たちは)飛行機に関心があっただけでした」
カラチでは記者会見にも臨みました。そこで、ある記者がこう質問しました。「ここ(パキスタン)でポリオがもうすぐ根絶されると今も期待していますか」。これに対し、ティーエンさんはこう答えました。「いいえ、ポリオが根絶されると期待はしていません。期待でなく、そう信じています」
途上で24回の募金に参加した二人は、7月30日、約41,800キロの飛行を終えて、シーダーラピッズの空港に無事着陸しました(募金の合計額は現在集計中)。
「飛行機から降りた後、迎えてくれたロータリーの仲間たちに気を取られていましたが、ふと振り返ると、そこにジャネットがいました」とティーエンさん。「私たちはそこに座り、ひたすら涙を流しました。ずっと離れ離れでしたから。私の一番の目標は、無事家族の元に帰ることでした。それが達成できたんです」