ポリオ根絶 チャンスは今
「“ポリオ根絶”ということ自体について考えることがあるんです」。こう語るのは、世界保健機関のポリオ根絶ディレクター、エイダン・オリーリー氏です。「達成に向けて確実に進んでいると多くの人が言う一方で、なかなか実現しない。“根絶”とは“ゼロサムゲーム”、つまりゼロを達成しなければすべて失敗です。少しずつ近づいてはいても、究極的に『ゼロ』以外の数字は無意味なのです」
緑豊かなアイルランド西部の町、ゴールウェーの自宅からインタビューに答えるオリーリー氏の頭の中は、地球上で野生型ポリオの感染が今も続く二つの国、すなわち紛争で荒廃したアフガニスタンと砂塵の舞うパキスタンのことでいっぱいです。
新型コロナウイルスが流行していようと、厳しい現実に直面しようと、ポリオ根絶の可能性については楽観的に考えています。「新型コロナの流行中は特に、感染率の高い伝染病の根絶への共感が高まる」とオリーリー氏。「新型コロナの感染拡大により、なぜ今ポリオを根絶すべきなのかを理解する人が増えています」
とはいえ、切迫感と現実感によって、この楽観主義にも陰りがさしています。「油断は絶対に許されません。重要なのは、これまで見逃されてきた子どもたちに確実にワクチンを投与するために、2倍の努力を注ぐことです」
1月にWHOのポリオ責任者に就任したオリーリー氏は、パキスタンとアフガニスタンの事情に既に通じています。パキスタンのUNICEF(国連児童基金)でポリオ根絶を指揮した経験をもち、アフガニスタン、イラク、シリア、イエメンでは危機下での国連の緊急対策を担当する機関OCHA(国連人道問題調整事務所)の責任者を務めました。
アフガニスタンで劇的な出来事のあった数週間前の7月、『Rotary』誌とのZoomでのインタビューに応じたオリーリー氏が、世界ポリオ根絶推進活動(GPEI)の新戦略や新しいポリオワクチンについて語りました。
野生型ポリオウイルスの最新の状況を教えていただけますか。
症例数は極めて少なく、明るい兆候です。過去2年間は多難で、2018年から2019年にかけて症例数が5倍に跳ね上がりました。2019年の症例数は176件で、2020年には140件でした。しかし、今年(7月27日現在)はアフガニスタンとパキスタンで1件ずつ、合計でわずか2件しか記録されていません(いずれも1月に報告) 。
現在、特に心強いのは、下水の環境検査の綿密なネットワークがあることです。アフガニスタンとパキスタンに100カ所近くあり、主な人口集中地を網羅しています。2020年には、毎月の検査サンプルの60%近くがポリオウイルス陽性という結果でしたが、今年の現時点では、この割合はおそらく15%程度です。アフガニスタンでは2月23日以来、野生型ポリオウイルスがまったく検知されておらず、パキスタンでは4月12日以来、5件が検知されただけです。
それはなぜだと思いますか?昨年にポリオ根絶キャンペーンを中断しなければならなかったことを考えると、症例数は逆に増えるのが当然だと思われるのではないでしょうか。新型コロナ流行によって社会の多くの要素が閉鎖されたことが原因でしょうか。
2020年の状況は、サーベイランスにおいてもキャンペーン運営においても確かに困難なものでしたが、今年は有利なことが二つあります。まず、アフガニスタンとパキスタンの国内と国境における人びとの移動が減少したことです。そして、ソーシャルディスタンスや手洗いといったとてもシンプルな行動様式の変化もある程度影響していると思います。ただし、こうした変化は短期的なものです。
アフガニスタンでの紛争により、人の移動の減少による恩恵は長続きしないでしょう。国境をまたぐ大規模な移動が起きる可能性に引き続き備える必要がありますが、大切なのは今訪れている機会をとらえることです。
ポリオの感染が増えるシーズンを迎えつつあり、今後も状況を見守っていきます。ポリオ根絶プログラムでは油断は禁物です。
「プログラムで一番大切なのは、前線で活動するワクチン投与者と戸別訪問を受ける世話人との関係です」
新型コロナウイルスにより、ワクチンへの注目が高まっています。これはポリオワクチンへの抵抗を減らすことにも影響していますか。
アフガニスタンとパキスタンでの根本的な問題は、家庭やコミュニティの信頼に関係していると思います。信頼という基本さえしっかりとできていれば、80~90%は達成したと言えます。しかし、残りの10~20%が難しいのです。
カギとなるのは、地域社会の周縁化というより大きな課題です。これは、家庭や地域社会だけで対応できるものではありません。地域社会の実際のニーズを的確に把握し、より確かな方法で解決策を導き出すために、体系的な関与が必要です。
プログラムで一番大切なのは、前線で活動するワクチン投与者と戸別訪問を受ける世話人との関係です。通常、この世話人とは母親です。このため、成功にとって最も重要なのは、十分な研修を受け、ポリオの根絶への熱意をもった地元の女性たちが前線でワクチン投与に当たることです。そこで信頼関係が築かれれば、家にいるすべての子どもにワクチンを投与できます。
タリバン支配下にあるアフガニスタンの一部地域で、2018年に戸別予防接種キャンペーンが中断され、300万人以上の子どもが定期予防接種を受けませんでした。アフガニスタンでの治安の先行きが見えない中で、ポリオ根絶は可能だと思いますか。
私たちは全関係者との対話を続けています。子どもを守ることが最優先であり、そのためにはあらゆる当事者の関与が必要です。モスクごとに予防接種キャンペーンを実施することについて、タリバンと合意しました。このキャンペーンには、ここ数年間まったく予防接種を受けていない子どもも含まれており、数カ月以内に開始できることを願っています。また、これを戸別予防接種キャンペーンにつなげていきたいと考えています。
100%でなければダメ、ということではありません。100%をめざす前に、まずはこの機会をとらえて40~50%の接種率を実現しましょう。7月と8月のキャンペーンは完璧ではありませんが、全国的な紛争に広がりつつある中でのキャンペーンであり、なんとか実現する方法を見つけなければなりません。
リスクはあります。今年はじめ、アフガニスタン東部で、前線で活動する保健従事者たちが標的にされ、8人が殺害されました。紛争地域では実権を有する人が入れ替わるため、できるだけ慎重に事を進める必要があります。
私たちはまた、特にアフガニスタン南部で、必要不可欠な予防接種(必要な全ワクチンへの普遍的アクセス)のための資金提供にも取り組んでいます。ポリオだけでなく、ほかにもアクセスの隙間が存在することがわかったからです。
もう一つ強調したいのは、サーベイランスシステムの重要性です。すべての子どもへの予防接種はできていませんが、サーベイランスで急性弛緩性まひの症例を継続的にキャッチしています。現地で起きていることを的確に把握するための基本的システムは整っています。予防接種プログラムのために、徐々に、しかも持続可能な方法で、あらゆる面でのアクセスを確保するシステムを築きたいと考えています。
パキスタンについてはどうでしょうか。同国では、ポリオ症例の81%がパシュトー語を話す人たちの間で起こっています(パシュトー語を話す人は国内全人口の15%)。なぜこのグループにポリオ症例が集中しているのでしょうか。ポリオ根絶プログラムは、これにどう対応しますか。
これはワクチン忌避の問題ととらえられることもありますが、問題はそれよりも幅広いと私は考えています。経済移民やそのほかの理由により、アフガニスタンからパキスタン、そしてカラチへと、パシュトー語を話す人たちの大規模な流入が起きています。公式・非公式にこのような移住の爆発的な増加が見られます。これらの移住者たちへのサービスは行き届いておらず、国・地方自治体とこれら少数派コミュニティとの間の問題もあるでしょう。コミュニティの受け入れや信頼といった問題もあります。
ポリオ根絶プログラムは、これらのコミュニティを支援している数少ないプログラムの一つですが、そこにあるニーズは安全な水、衛生、栄養、基本的な保健サービス、教育など、ポリオワクチンの枠を超えています。ですから、こうした非公式な移住者たちにアクセスしようとすると、残された多くの問題がごっそりとついてくるわけで、ポリオ予防接種はその窓口的なものです。
厳密にいえば、その他のニーズはポリオ根絶プログラムの範囲内ではありませんが、コミュニティから支持と信頼を得るには、これまでよりもずっと息の長い努力をしなければならないことに、私たちは気づきました。継ぎ接ぎだらけの場当たり的な方法から、もっと包括的で体系的な方法に移行する必要があると考えたのです。
新戦略では「zero-dose children」(投与ゼロの子どもたち)という言葉が使われています。これはどのような意味ですか。
「Zero-dose」(投与ゼロ)とは、予防接種を一度も受けたことがないという意味です。子どもに経口ポリオワクチンを投与するだけでなく、ほかの基本的な予防接種もできるだけ受けさせたいと考えています。これは、ポリオの温床に既にいる感染リスクの高い特定数の子どもだけの問題ではありません。次々と生まれる新生児への予防接種は、時間との闘いです。パキスタンでは毎年700~800万人の赤ちゃんが生まれ、できるだけ多くの新生児に生後数カ月以内に予防接種する必要があります。
対象となる子どもの数は、推定でどのくらいですか。
パキスタンでは、全国的な予防接種(戸別訪問)キャンペーンごとに、5歳未満の子ども4,000万人以上への予防接種を目標とします。アフガニスタンではその数は900万~1,000万人です。新型コロナ流行の中で前線で活動する従事者たちには、本当に頭が下がります。
野生型ポリオウイルスと、伝播型ワクチン由来ポリオウイルスの、両方に対応する必要があると思われますが、これらは何が違うのですか。
野生型ポリオウイルスは、その名が示す通り、基本的にウイルスの原型です。何百年、何千年をかけて進化してきたもので、今も進化し続けています。
経口ポリオワクチン(生ワクチン)には病原性を弱めたポリオウイルスが含まれており、十分な免疫のない(またはまったく免疫のない)集団の中でこのウイルスが何年も長期的に伝播し、いずれ身体まひを引き起こすウイルスに戻る可能性があります。これが「伝播型ワクチン由来ポリオウイルス(cVDPV)」です。
ウイルスは、免疫のない宿主、つまり感染しやすい子どもたちを必要とします。「投与ゼロ」の子どもがいれば、そこに伝染病が入り込みます。これらの子どもがいる地域をマップにすると、いつも同じ地域が問題となります。努力を2倍にして「投与ゼロ」の子どもへの予防接種を最優先する必要があるのは、このためです。
世界的にcVDPVはどのくらい広がっているのですか。
2016年以来、1,800件の症例が報告されています。2018年から2019年にかけて症例数が3倍となり、2019年から2020年にかけてはさらに3倍となりました。2020年のcVDPVによる症例数は合計1,103件でした。2021年には、現時点(7月27日)で179件が報告されています。予防接種キャンペーンの再開につれて進展が見られ、症例が出た国の数は昨年は27件でしたが、今年は十数件まで減っています。
cVDPVの症例は、子どもが予防接種を受けていない地域で起きています。予防接種を十分に受けていれば、cVDPVは問題とはなりません。症例はきわめて局地的であり、2020年には全症例の40%をアフガニスタンとパキスタンが占めていました。昨年にcVDPVの症例が最も多かったアフガニスタンに目を向けると、タリバンが戸別訪問ポリオキャンペーンを禁じている地域に症例の90%が集中しています。
ですからこの場合も、予防接種を通じてこれらの子どもを守ることが課題となります。免疫を十分に高めなければ、リスクが生まれます。ポリオ根絶プログラムでは、問題の根本的原因に取り組む段階に立ち返ろうとしています。つまり「投与ゼロ」のすべての子どもに十分な予防接種をすることです。
野生型ポリオウイルスの症例が2件、cVDPVによる症例が100件以上ある場合、どちらのほうが懸念が大きいですか。
私たちは、「野生型ポリオウイルスを根絶すること」と「cVDPVの伝播を阻止すること」の二つの目標を設定しました。野生型ポリオウイルスは非常に見つけにくく、今完全に根絶する必要があります。アフガニスタンとパキスタンではこれら両方のウイルスによる感染が続いていますが、定期的な予防接種によってcVDPVをかなりなくせることは明らかです。野生型ポリオウイルスはそれよりもずっと根強い問題です。
cVDPVに対処する新たな手段が開発されましたが、これはどのように開発されたのですか。これによって何が達成できると期待していますか。
昨年11月、WHOは、新型経口ポリオワクチン2型(nOPV2)を緊急使用リストに初めて追加しました。このワクチンの開発には10年近くかかりました。既存のワクチンと同じくらい効果的ですが、遺伝的安定性がずっと優れているため、身体まひを引き起こすウイルスへと退行する可能性が低くなります。予防接種に関する戦略的諮問委員会(Strategic Advisory Group of Experts on Immunization)は、今後このワクチンをcVDPVの発生時に使うものとしました。このワクチンの使用を希望する国は、初めて使用する際に、(サーベイランスと安全モニタリングに関する)基準を満たさなければなりません。3月以来、多くのキャンペーンが実施されて5,000万人近くにこのワクチンが投与されており、安全性への大きな懸念を示す兆候は見られていません。初期使用の段階からより広範な使用の段階に移行できるかどうかを検討中であり、移行後には特にサーベイランスにかかわる煩わしい要件を減らすことができます。
アフガニスタンとパキスタンから完全にポリオを根絶することの勝算はどのくらいだと思いますか。
その勝算にはかなり自信があります。
新戦略では、すべての野生型ポリオウイルスと伝播型ワクチン由来ポリオウイルスによる感染を2023年までに食い止め、2026年までに野生型ポリオウイルスの世界的根絶の認定を受けるという目標を掲げています。ただし、重要なのは、現場で活動する人たちにとっては2023年も2026年も何の意味も成さないだろうということです。私は現場での20年の経験があります。現場の人たちに3年~5年の戦略について話しても、うつろな表情の反応しか返ってきません。四半期ごとにもっと目に見える目標を立てる必要があります。
この四半期(7月~9月)のために立てた目標は、アフガニスタンでのアクセスのダイナミクスを切り開くことです。例えば、nOPV2の初期使用からより広範な使用へと移行することに関する目標などです。この目標については非常に大きな進展が見られています。
ですから、2023年と2026年のことは忘れ、今月、来月、再来月に何をする必要があるのかに目を向け、継続的に活動を改善していきましょう。そうすることが、目標の達成に何よりも重要なのです。
「ポリオ根絶プログラムで肝心なのは、達成することではなく、隙間をなくしていくことです。予防接種の隙間、サーベイランスの隙間を」
6月、世界ポリオ根絶推進活動(GPEI)が、「ポリオ根絶戦略2022-2026:約束を果たすために」と題する文書を発表しました。この題が示す通りになるのでしょうか。
一連のスケジュールと目標を達成し、この文書の題を実現するのは可能だと思います。必要なのは、どこに隙間があるのか、その隙間をなくすために何を実行しているかを、正直に見直すことです。ポリオ根絶プログラムで肝心なのは、達成することではなく、隙間をなくしていくことです。予防接種の隙間、サーベイランスの隙間を。ひたすら継続、継続、さらに継続すれば、気づいたら目標に達しているでしょう。
私が扱ったことのある二つの状況を例に取りましょう。私は2015年1月に初めて(パキスタンのUNICEFでのポリオ根絶責任者として)ポリオ根絶にかかわり始めました。その時、パキスタンでのポリオ根絶プログラムは最悪だと独立監視委員会から評されました。2014年の野生型ポリオウイルス症例数は359件、そのうち306件がパキスタンだったのです。その2年半後、パキスタンの症例数は3件程度まで減りました。その年の症例数は合計で8件だったと思います。困難にもかかわらず克服できたのです。そこで学んだ一番の教訓は、根絶にいたるための道を妥協せずに見つけることです。
1月に今のポジションに就いたとき、なぜこの段階になってポリオ根絶にかかわるのかと尋ねられました。私にとって、ポリオ根絶は気が遠くなることでも、不可能なことでもありません。課題は、現時点で自分たちがどこにいるのかを把握し、次にどのような現実的なステップを取る必要があるのかを具体的に理解することです。私にとっては、根絶活動を継続できたことが昨年の大きな達成でした。新型コロナ流行の最中にポリオ根絶プログラムを再開させるのがどれだけ大変だったかを過小評価する人もいます。政府や現場の保健従事者たち、その他のさまざまな人たちの勇気ある決断があったおかげです。
2019年に開始された前回の戦略では、何がうまくいかなかったのでしょうか。新戦略にはどのような新たなアイデアが含まれていますか。
症例数がゼロからどんどん遠ざかっていましたが、新型コロナ流行によって状況が逆転しました。根絶の緊急性への意識が低まっているという現実的な懸念がありましたし、地域社会のより幅広い需要に再び目を向けることへの深刻なニーズもありました。
もう一つは、政府によるオーナーシップと関係しています。GPEIが緊急性をもつのはもちろん重要ですが、政府もその緊急性を認識する必要があります。パキスタンで私が驚いたのは、全国緊急対策センターの設備が、新型コロナ流行への対策に使われていたことです。そこで新型コロナウイルスについて州のトップリーダーや軍関係者、保健省の役人たちと会議が毎日行われていました。全関係者がリアルタイムのデータに目を通し、決定を下し、各実行項目について責任者をしっかりと割り当てていました。ポリオの緊急性は新型コロナウイルスほど重大ではないかもしれませんが、同じ方法を強く奨励すべきだというメッセージを伝えたいと考えています。
強化すべきもう一つの点は、業績とリスク管理です。2023年と2026年についてはもう話しましたが、どのような尺度で成果を測っていくのか。業績を評価し、進路修正の必要があればすぐに動くことが重要です。主な測定基準を使い、今よりもずっと体系的に管理していく必要があります。
今何に一番力を入れていますか。夜も眠れないほど頭の中にあるのは、どんなことですか。
目の前にある機会をつかむこと。ずっと見逃されてきた子どもたちに予防接種するために容赦なく挑み続けること。多くのイニシアチブがありますが、どれもが同等に効果があるわけではありません。本当に大切なのは、キャンペーンであれ、無料の医療サービスや定期的な予防接種であれ、私たちが行っていることが、ポリオの温床でこれまでいつも見逃されてきた子どもに一人でも多く予防接種をする助けになっているのかどうか、ということです。すべてのキャンペーン、すべての活動が、目標へと少しずつ近づくために役だっているのか、と問う必要があります。
夜も眠れないほど考えてしまうのは、私たちが十分にそのことに力を注いでいない可能性です。大きな数字を生み出すことはできるけれど、本当に正しい子どもたちに予防接種しているのか、ということです。
ロータリー会員へのメッセージは?
私は今のポジションに就いて6カ月になります。インド、アフリカ、パキスタン、アフガニスタンのロータリアンたちとバーチャルまたは対面式でお会いしてきましたが、コミットメントの減少は微塵も感じたことはありません。目標は明確であり、メッセージはシンプルです。「ポリオのない世界は、手の届くところにある」。機会は訪れており、目標を成し遂げるチャンスは今です。
戦略計画のハイライト
6月、世界ポリオ根絶推進計画(GPEI)は、新たな戦略計画「ポリオ根絶戦略2022-2026:約束を果たすために(Delivering on a Promise: Polio Eradication Strategy 2022-2026)」を開始し、二つの目標を掲げました:一つは「今も野生型ポリオが常在する2カ国(パキスタンとアフガニスタン)で野生型ポリオの伝染を阻止すること」、もう一つは「伝播型ワクチン由来ポリオウイルス(cVDPV)の発生を阻止すること」です。これらの目標を達成する方法は次の通りです。
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政治的アドボカシー: 政府と協力して、発症者が出た場合に迅速かつ効果的に対応するために一層の緊急性と責任意識を生み出す。国や州・地方レベルの人びととの関係と信頼を築き、ポリオ根絶プログラムの利点についてより深い理解を生み出す。アフガニスタンの一部地域における戸別訪問の予防接種への禁止に対処する方法を模索する。
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コミュニティ・エンゲージメント: ポリオによる影響を多く受けている、感染リスクの高いコミュニティ(アフガニスタンとパキスタンにおけるパシュトー語を話すコミュニティなど)との意義あるパートナーシップを築く。ポリオ根絶キャンペーンの計画立案にコミュニティのメンバーが貢献できる場合には、委員会を設置してほかの保健ニーズについて伝える。パシュトー語を話すインフルエンサー(助産師や女性団体など)と協力して、より幅広い育児の慣習にとってポリオワクチンが大切であることへの理解を築く。
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運営の改善:前線の活動従事者となることのできる地元出身(地元の言語を話す)の女性を募り、研修することで、キャンペーンを強化する。前線の従事者たちの必需品と安全を確保し、能力開発の機会を与える。デジタルマッピングや活動従事者へのモバイル決済といった技術的イノベーションを採用する。最近承認された新型経口ポリオワクチン2型(nOPV2)を使用して症例の発生に対応する。
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保健プログラムへのポリオの組み入れ:アフガニスタンとパキスタンにおいて「投与ゼロ」の子どもに全ワクチンを投与する。新型コロナワクチンの接種開始をサポートすること。ポリオワクチンを、地域社会とのパートナーシップによって立ち上げた幅広い保健と基本サービスのパッケージの一部とする。新生児への経口ポリオワクチン投与において医療機関をサポートする。
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サーベイランスの改善: ポリオ発生への対応をスピードアップするため、まひを発症した子どものポリオウイルス検査結果を一早く得るための技術的イノベーションを駆使する。ポリオのサーベイランスを、ワクチンで予防可能なほかの疾病(はしか、新型コロナウイルスなど)のサーベイランスシステムに統合する。
この記事は『Rotary』誌2021年10月号に掲載された記事を翻訳・編集したものです。