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パキスタンの予防接種の最前線で闘う「隠れた部隊」

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40万人を超えるポリオ根絶ワーカーたちを支える仕組みとは

文:

「コミュニティヘルスワーカー」という言葉に耳慣れない人は多いでしょう。ましてや、実際に会ったことのある人は少ないはず。しかし、世界の医療システムにおけるその役割(多くはボランティア)の重要性は、ますます高まっています。特にポリオ根絶や疾病予防など、ロータリーの保健の取り組みには欠かせない存在となっています。

コミュニティヘルスワーカーの多くは、地域社会と強いつながりを持つ女性たちです。これらの女性ワーカーは、困難な環境に暮らす人びとに手を差し伸べ、家々を訪問して基本的な医療サポートやアドバイスを提供します。多くの国では、ポリオ予防接種活動の主力メンバーでもあります。

医療人類学者で、ジョンズ・ホプキンス大学教授であるスベア・クロッサー氏はこう語ります。

「彼女たちは妊婦に基本的な健康チェックを行い、出産の際には病院まで付き添い、出産後も母子の状況を確認して予防接種を促します。ポリオだけでなく、ほかの予防接種のサポートも行っており、ワクチンに対する親の不安を和らげたり、接種会場まで連れて行ったりしています」

パキスタンは、いまだに野生型ポリオウイルスが存在する世界で二つの国の一つ(もう一つはアフガニスタン)です。このため、特にパキスタンでは、コミュニティヘルスワーカーによる予防接種活動と啓発活動は極めて重要となっています。

パキスタン全土に40万人以上のコミュニティヘルスワーカーが存在し、遠隔地にも派遣されています。その規模は「この国の軍隊に次ぐもの」と言うのは、イスラル・ウル・ハク氏です。ウル・ハク氏は、世界ポリオ根絶推進活動(GPEI)の中心的パートナーの一つ、UNICEF(国連児童基金)の社会・行動変革専門家であり、この国でのポリオ根絶を監督する重要な役割を担っています。

パキスタンのコミュニティヘルスワーカーには、「最前線ワーカー」と「社会啓発ワーカー」の二種類があります。50万人近いコミュニティヘルスワーカーを見つけ、研修し、管理することの必要性について、ウル・ハク氏にインタビューしました。

Q: 最前線ワーカーと社会啓発ワーカーの役割は?

A: 最前線ワーカーは家々を訪れ、子どもたちに予防接種を行います。一方、社会啓発ワーカーは、ポリオ予防接種の大切さや母子の健康について、地域にメッセージを伝えます。

Q: 国内のあらゆる地域社会でワーカーを見つける必要があるのですか?

A: そうです。人びとが安心して受け入れられるよう、地域とのつながりがあり、信頼されている人を見つけることが重要です。外部の人間では信頼を得られませんから、地域に住む人の中から選ぶ必要があります。

Q: 地域内の人であることがなぜ重要なのでしょうか?

A: 「仲間なら自分たちを傷つけることはしない」という信頼感があります。その信頼を得てこそ、ポリオ予防接種の大切さを人びとに説得できるのです。28年に及ぶ活動の成果として、現在では95%以上の家庭が予防接種ワーカーの訪問を受け入れてくれます。

Q: ヘルスワーカーの採用にはどんな条件がありますか?

A: 主に女性を対象としています。保守的な地域では、家族以外の男性は家に入ることが禁じられており、母親たちに会うこともほぼ不可能だからです。ただし、女性が赴くのが困難な遠隔地では、現地の男性を採用することもあります。

Q: 遠隔地でワーカーを募る上で、ほかにどんな課題がありますか?

A: ワーカーは十分に読み書きができるだけの教育を受けているべきですが、遠隔地では識字率が低い場合もあります。そのような遠隔地では、読み書きができなくても地元で信頼されている高齢女性を採用することがあります。

  1. カラチ(パキスタン)で、予防接種を受けた子どもの指に印をつけるコミュニティヘルスワーカー。2022年8月3日。

    © Rotary International

  2. コミュニティヘルスワーカーは、ロータリーの多くの取り組みでも重要な役割を担っています。写真は、2022年大規模プログラム補助金を受領したプログラム「ナイジェリアでの家族の健康のための協力」での活動の様子。2023年11月30日。

    © Rotary International

  3. 世界各地のロータリー会員もコミュニティヘルスワーカーを支援しています。写真は、インドネシアでワーカーたちと対話するロータリー財団専門家グループ(Cadre)メンバー。2024年5月24日。

    © Rotary International

  4. インドで基本医療や栄養改善、早期教育を行う地域センターで子どもに予防接種をするコミュニティヘルスワーカー。2025年1月21日。

    © Rotary International

Q: ワーカーたちはどのような研修を受けますか?

A: ポリオや定期予防接種に関する基礎知識、対話や傾聴のスキル、家庭医療の基本などを学びます。最近では「ゴールデントライアド」と呼ばれる3人1組(地域責任者、最前線ワーカー、社会啓発ワーカー)の体制を導入し、信頼構築のアクティビティなどを通じてチームワークを強めています。社会啓発を絶やさないために、6週間ごとに定期的な再研修も行っています。

Q: ワーカーへの報酬はありますか?

A: 月に約150米ドル(約2万2千円)が支払われます。

Q: 最前線ワーカーたちは予防接種キャンペーンを年に何回実施しますか?

A: 平均で年に6〜8回ですが、そのうち全国一斉のキャンペーンは3~4回、それ以外は地域限定で行われます。最近の大規模なキャンペーンでは、約4,520万人の子どもに予防接種を実施しました。

GPEI(世界ポリオ根絶推進活動)により派遣されているパキスタンの女性ヘルスワーカーたちのストーリーをこちらからお読みください

— 2025年4月


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