偏見ではなくサポートを
自閉スペクトラム症への理解と認識を促す
ケニアでは2021年1月、新型コロナウイルス流行による9カ月間の学級閉鎖がようやく終わりとなり、シルビア・モチャボさん(ムサイガ・ロータリークラブ会員)も、息子のアンディ君(11歳)が学校に復帰できるのを心待ちにしていました。世界中の家族と同様、コロナ禍によってモチャボさん親子の普段の生活は中断され、3歳で自閉症と診断されたアンディ君にとっては、学級閉鎖とロックダウンという環境変化は特に厳しいものでした。
しかし、授業再開の初日は期待通りにいきませんでした。
「マスクをしなければ授業に出られない、と学校に言われたのです。自閉症のため身体に触れるものに敏感なアンディは、マスクが使えません。言語療法も受けられず、よだれがひどくなりました」とモチャボさん。学校に通えないため、発達に欠かせない作業療法費の援助もありません。モチャボさんは現在、アンディ君の自宅セラピーのための全額を負担しています。
「セラピーを週3回から1回に減らさなければなりませんでした。息子には週3回のセラピーが必要なのはわかっていますが、経済的に無理なのです。息子がかわいそうでなりません」
自閉スペクトラム症(ASD)は、さまざまな発達障害によりコミュニケーションや対人関係がうまくいかない、または適切な振る舞いが困難となるといった特徴があります。世界保健機関(WHO)によると、世界の子どもの160人に一人が、ASDであるとされています。
米国疾病対策センター(CDC)によると、近年報告されているASDの有病率は高まっており、これは日本、ドイツ、イランといった各国のデータと共通しています。その原因が、ASDの臨床的定義の変更によるものなのか、診断がより綿密になったからなのかは定かではありません。しかし、CDCはASD患者の絶対数が増えている可能性を除外しておらず、研究者たちもその可能性を調査しています。
ロータリー会員であるコリーナ・ヤコ-ゲレーロさん(フィリピン、サンタアナ[ダバオ]ロータリークラブ)は、自身は神経眼科医、夫は神経科医ですが、息子がASDと診断された時には大きなショックを受けました。この診断を受け入れ、言語療法、作業療法、特別支援教育といったサポートを探すまでに時間がかかりました。
「自閉症のお子さんのいる親や家族に伝えたいのは、自閉症は“終身刑ではない”ということ。自閉症の子どもにも生きる権利があり、人生で直面する困難に備えられるように適切な特別支援教育を受ける権利があるということです」とヤコ-ゲレーロさん。
「現実を否定せずに受け入れ、子どもが最高の人生を歩めるように愛情を注がなければなりません。自閉症の子だって愛らしく、愛情を受けて育つ権利があります」
自閉症の子どもがいる家族はしばしば、社会の無理解に立ち向かわなければなりません。大都市でもそれは同じです。社会的烙印を押される家族も多く、国によっては自閉症が魔術や親の悪行のせいだと考えられることさえあります。
自閉症では、5歳になる前の早期介入が大切とされています。「発達の遅れを特定し、早期介入ができるよう、発達障害について早期の診断が必要」と話すのは、ナイロビにあるKaizora神経発達療法センターの所長兼創立者であるプージャ・パネサーさんです。このセンターでは、段階的アプローチを用いて、コミュニケーションスキルやトイレトレーニングを子どもたちに教えるとともに、行動面での懸念を和らげるための訓練をしています。
「早期介入によって自閉症の子が普通教育に移行したり、自閉症の大人が職に就いて自立生活を送れるようになるなど、大きな成果が上がっています」とパネサーさんは言います。
数字で見る自閉症
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40%
自閉症の人のうち発話がうまくできない人の割合
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3人中2人
6~15歳の自閉症の子どものうち、いじめを受けた子どもの割合
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2億6,800万ドル
2015年に米国で自閉症の人のケアにかかった費用
出典:Autism Speaks
自閉症の管理方法はさまざまで、すべての人に有効な方法というものはありません。日々の生活で多くのサポートを必要とする子もいれば、かなり自立して行動できる子もいます。「うまく発話ができない子には言語療法が有効で、感覚統合に問題のある子には作業療法が有効」とヤコ-ゲレーロさんは話します。
3人の子をもつシングルマザーのモチャボさんの場合、自身が所属するロータリークラブからサポートや励ましを得ることができました。仲間から協力を得て、特別なニーズを抱える子どもたちの声となって認識向上や擁護活動にも乗り出しました。その一つとして、毎年、国内のほかのクラブと協力して、障害のある子どもたちと一緒に遊んだり、ゲームをしたり、エンターテイメントを楽しんだりするイベント「サンシャイン・ラリー」を開催しています。
「このイベントに参加して、自分一人でチャレンジするのではないと気づきました。ロータリアンとして、自分と同じような家族のためにもっと何かをしたいと考えています」
このイベントをきっかけに、モチャボさんは息子の名を付した「Andy Speaks for Special Needs Persons」という団体を設立。特別なニーズのある人たちが直面する社会的烙印をなくすために、代弁者となって擁護活動を行っています。「支えあうことが大切」とモチャボさんは話します。
ヤコ-ゲレーロさんも、フィリピン自閉症協会を通じて自閉症の啓発に取り組んでいます。同協会は、特別なニーズをもつ人たちへの理解と社会統合を促しています。
「私たちのロータリー第3860地区では、自閉症協会が毎年実施する“エンジェル・ウォーク”に参加し、自閉症の啓発に積極的にかかわっています」とヤコ-ゲレーロさん。「このウォークには、自閉症の人やその家族、教師など、毎年数千人が参加します。ニュースでも取り上げられ、全国的な自閉症の認識向上に一役買っています」
世界のほかのクラブも、自閉症関連のプロジェクトを実施しています。トルコのローターアクトクラブは、自閉症の人たちのためにモザイク美術や絵画のワークショップを毎月開き、自閉症への啓発のための展覧会も計画しています。マレーシアでは、グローバル補助金を活用し、教師や世話人を対象に早期介入研修ワークショップを実施しています。ブラジルでは、インターアクトクラブがロータリークラブと地区の協力の下、自閉症の子どものための音楽療法スペース「インクルージョン・シンフォニー」をつくり、対人スキルや意思疎通力を刺激して伸ばすことのできる空間を提供しました。米国では、シカゴ近郊のロータリークラブが、自閉スペクトラム症の若者のための職能訓練プログラムをグローバル補助金で実施しました。
ヤコ-ゲレーロさんにとって、自閉症のための介入において一番大切な場所は「自宅」です。「特別なニーズのある子どもがいる家庭では、家族全員の協力が必要なだけでなく、家族にとっても苦にならないようにすることも大切です」とヤコ-ゲレーロさん。「愛情がなければできない仕事ですし、忍耐力も試されるでしょう。しかし、わが子のためとあれば、何でもできます。多くのことを犠牲にし、我慢し、理解することが必要とされます」
4月2日は世界自閉症啓発デーです。
ロータリー財団を通じて自閉症関連のプロジェクトをご支援ください。ご寄付は rotary.org/donateから。