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差別と迷信に立ち向かう

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迷信による身体売買のために狩られ、恐れられて孤立していたアルビノの人びと。今ではロータリーとシスター・マーサの支援の下で安全に暮らしています。

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タンザニアのニャミゼゼ村。太陽の高く昇る午後でも、日光に弱い白い肌を持つマーサ・ムガンガさんは生き生きと働いています。

皆から「シスター・マーサ」と親しみを込めて呼ばれる彼女は、54歳。ロータリーの地域運動家として、アルビニズム(先天性白皮症)の人びとの権利を守るキャンペーン活動を行い、タンザニア国内でも特に大きな成果を上げてきました。アルビニズムは誤解を受けやすい遺伝性疾患で、皮膚、目、髪などに異常な色素欠乏が見られます。また、視力が弱く、日光に極端に敏感であるといった特徴があります。  

アルビニズムの人びとは「アルビノ」とも呼ばれますが、ムガンガさんもその一人です。彼女は30年にわたってアルビノ支援を行い、教育を受ける機会の拡大、紫外線の害から身を守る対策、社会に流布している迷信と偏見の撲滅などに取り組んできました。特にタンザニアでは、悪意のある呪術医たちが金儲けのために、アルビノの体の一部を手に入れると幸運になるという迷信を広め、問題になっています。  

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サーダ・カエマさんは、布地屋と、路傍でかごやマット、鍋などを売る雑貨屋の二つの店を経営しています。「母は何でもできるんです」と、一緒に働いている娘のメアリーさんは言います。  

このような迷信が原因で、ここ10年間に多くのアルビノが無残に殺され、社会から隠れて生きるようになり、死んでからも墓まで荒らされる状況が続いています。タンザニアでも少なくとも76人のアルビノが殺され、72人が暴行を受けました。その中には手足を切り取られる事件も多数ありました。 

この日のムガンガさんは、ファシリテーター・チームの一員として、人口約10,000人のニャミゼゼ村の年配者と一緒に、ロータリーが後援する地域ワークショップに参加しています。彼女とお年寄りたちの頭上には、ビニールシートで大きな日よけが設けられています。  

すでにチームの仲間が何人も、参加者に向けてスピーチを行いました。その多くは、すり切れたボタンダウンのシャツを着た男性の市民活動家や宗教指導者でしたが、ニャミゼゼ村に住む二人のアルビノ、ハピネス・セバスチャンさん(24)と幼い娘のケフリンちゃんも皆の前で語りました。  

ムワンザ州の地域教育イベントで、ハピネスさん(左)の娘のケフリン・クレメントちゃんを抱き上げるロータリー会員のフェイ・クランさん。

ディスカッションの目的は、アルビニズム問題について住民教育を行い、多くの偏見を正し、アルビノの人たちの生活向上を図ることです。村人たちは、アルビニズムの遺伝子的特徴、最近起きた襲撃事件、非人道的な迷信の数々などについて話し合いました。

ある村人は、アルビニズムは「悪霊の呪い」だと子どものころに教えられたと言います。別の村人は、アフリカ人女性が白人男性と寝た結果だと言います。「アルビノは不死身だ」と3人目が言います。「ただ姿を消すだけなんだ」

セッションの終わり近く、ムガンガさんのスピーチの順番が回ってくると、彼女は約束どおり、この日もっとも大切なメッセージとして、自分の信念を村人たちに語りました。  

アルビノにとって恐ろしいものは、殺人だけではありません。アフリカの強い日光も非常に危険です。アルビノには、皮膚、髪、目などに色をつけて紫外線を防ぐメラニン色素が欠乏しています。タンザニアのような赤道に近い国で、強い紫外線から適切に身を守れないと、命にかかわる病気が起きる恐れがあります。

多くのアルビノが適切な紫外線対策の方法を知らないために、皮膚がんの発生率は非常に高くなっています。カナダを拠点に全世界のアルビノの生活向上を目指す福祉団体、Under the Same Sunによれば、タンザニアのアルビノのほぼ全員が20歳までに危険な前がん病変を患い、その多くが40歳未満で亡くなります。がんに対する意識の向上と、治療機会の増大によって平均余命は伸びていますが、僻地に住むアルビノにはまだ日光の危険性がよく知られていません。

そのため、ムガンガさんは知識の必要なアルビノに対してグループ・レクチャーを行い、特に日光が強い時間帯には常に日陰にいるようにし、できる限り体をおおう服装をするなどのアドバイスをしています。脚や腕をむき出しにして日なたに座っていたセバスチャンさんにとって、レクチャーは初めて聞くことばかりでした。ムガンガさんは手本として自分の服装を見せました。首や肩をおおう長袖のシャツ、足首まで届くスカート、顔と頭を保護するバケットハットにはロータリーのロゴがついています。

ディスカッションの最後に彼女が「太陽は私たちにとって最大の敵」と締めくくると、地元のダンサーが登場してパフォーマンスを行い、村人全員の前で学習ビデオが上映されました。「私たちの仲間が、こんなに多く死んで良いわけがありません」

迷信と科学

アルビニズムにはさまざまな迷信がありますが、実際の科学的しくみは非常にシンプルです。メラニン色素の生成に必要な遺伝子はいくつかありますが、そのうちの一つが変異すると、アルビノの子どもが生まれます。

  • 33000.00+

    タンザニアのアルビニズムの人々

  • 76.00

    2000年以降にタンザニアで殺害されたアルビニズムの人びと

  • 72.00

    2000年以降にタンザニアで暴力被害を受けたアルビニズムの人びと

アルビニズムは劣性遺伝で、皮膚や髪が白く目が赤い「眼皮膚白皮症」と目にだけ色素のない「眼白皮症」があります。眼皮膚白皮症は常染色体(性染色体以外の染色体)の劣勢遺伝です。そのため、両親がアルビノの家系で、父母からもらった遺伝子のコピーの両方に変異がないと、アルビノの子どもは生まれません。両親のどちらもアルビノではないが、遺伝子に変異がある場合に、子どもがアルビノになる確率は25%です。

世界の人口に対する眼皮膚白皮症の人の割合は20,000人に1人ですが、アフリカの多くの国の発生率は、それより高い数字です。

米国ウィスコンシン州の遺伝学者で、世界的なアルビニズムの権威であるマレー・ブリリアントさんは、タンザニアでは1,400人に1人がアルビノで、遺伝子異常のあるキャリアの割合は19人に1人であると推定しています。彼の研究結果によれば、タンザニア国内のアルビノのほとんどについて、2,500年前の共通の祖先に起きた遺伝子変異までたどることができます。 

タンザニアにはアルビノの数が多いにもかかわらず、偏見と差別に苦しんできた長い歴史があります。

何世代にもわたって、アルビノの子どもは恥であり、家族に不幸をもたらすと信じられてきたため、生まれてすぐに殺されるのも珍しくありませんでした。生涯にわたって苦しむよりも、その方がいいと考えられていたのです。  

国内にキリスト教が徐々に広まると、このような習慣は消えていきましたが、迷信と差別は残りました。

ムガンガさんは、アルビノでない両親から生まれた最初のアルビノの子どもだったので、少女時代は孤独な思い出ばかりです。

アルビニズムの原因は?

アルビニズムは両親から子どもへ遺伝します。二つのタイプがあります。

  • 眼皮膚白皮症:目、髪、皮膚の色素が少ない。
  • 眼白皮症:目の色素が少ない。 

近所の人たちは彼女の家族が「呪われている」と言い、同級生からは距離を置かれました。ある教師は彼女の目が悪いと知っていながら、教室のいちばん後ろの席に座らせました。アルビノの視力が低いのは、網膜や虹彩に色素が少ないためです。彼女は小学校の授業について行けず、退学しました。  

17歳になるとムガンガさんは、何人も妻を持つ男と結婚させられそうになり、川に飛び込んで自殺を図りました。しかし川の流れによって岸に打ち上げられ、それからは人生に新しい目標を持つようになりました。聖書学校で学位を取り、英国教会の宣教師として働き、最後には自分で非政府組織「アルビノ・ピースメーカーズ(Albino Peacemakers)」を設立。この組織はロータリーのパートナーとして、アルーシャ州にある彼女の故郷の町を拠点に、地域社会や家族向けにアルビノ関連の教育を行うほか、アルビノの子どもの学習を支援し、命を守るための皮膚がん検査を行っています。

多発する暴力

ムガンガさんは自分の道を見つけましたが、タンザニアのアルビノたちを苦しめる状況は、さらに悪い方向へと進んでいます。  

2007年初めごろから、特にビクトリア湖とタンガニーカ湖周辺の北西部地方で、主にアルビノの子どもたちを狙って体の一部を奪おうとする事件が起きていることが、報道で明るみになり始めました。

アルビノの肉が幸運を呼ぶという迷信は古くからありますが、この州で金やダイヤモンドの鉱業が発展して資金が流入してきたために危険が増したと、アフリカ内地協会タンザニア支部(Africa Inland Church of Tanzania)の地域活動責任者で、ニャミゼゼ村のイベントのファシリテーターであるフレッド・オティーノさんは言います。  

外部から来た投資家は金回りがよく、一山当てるために何でもします。地元の呪術師たちは、金儲けの匂いをかぎつけてギャングを雇い、アルビノの体の一部を使った「幸運のお守り」を集め始めました。「この地域のビジネスと政治は、非常に迷信的です」と、オティーノさん。「もし誰かが『アルビノの手足を持っていれば、金鉱が見つかる』と断言すれば、多くの人がそのとおりにします」

陶工のニーマ・カジャンジャさん(37)は、息子のバラカ君を育てています。バラカ君は今も母親の身の安全を心配していますが、「昔よりずっと良くなった」と言います。

最初は地元のレポーターが勇気を出して調査報道を行い、「アルビノ狩り」という恐ろしい噂が現実に、しかも大規模に起きていることを明らかにしました。  

タンザニアのBBC特派員、ビッキー・ンテテマさんは、危険な潜入取材を行い、呪術師が体の一部を彼女に売り込むところを撮影しました。この取材はさらに大規模な調査の一環で、後に組織的な取引が行われていることを突き止めました。  

2009年には国際赤十字赤新月社連盟のレポートで、四肢・性器・耳・目・鼻などアルビノの体の部位がすべてそろったセットが、ダルエスサラーム市内で75,000ドルで売られていることが判明しました。一年間の国民一人当たりのGDP が1,000ドル未満のこの国では、莫大な金額です。 

レポートによれば、政府はアルビノの子どもたちに、身を守るために障害者学校に行くように勧めているものの、それらの学校では300人が「放置または落ちこぼれ」の状態にあります。また、警察署や教会の近くに集まって、毎日おびえて暮らしている子どもも多数います。

近年では政府の監視が厳しくなったこともあり、殺人件数は減少しています。  

2008年以来、タンザニアの高等裁判所は、アルビノの殺害に関与したとして、少なくとも15人に死刑判決を宣告しました。警察の取り締まりによって、200人以上の無免許伝統医を逮捕しました。その多くが、暴力事件とのつながりを疑われています。首相の命令によって、州・県・郡・区・村ごとに各自治体が安全保護委員会を設立し、襲撃の容疑者や遺体の運び屋を警戒する訓練を受けています。  

ムワンザ州委員事務所管理者のプロジェクタス・ルバンジブワさんは、当局が「非常に真剣」になったと言い、一般市民も、運び屋の容疑者を発見する際に重要な役割を果たしていると指摘しています。  

Under the Same Sunでは、アフリカ全体で報告のあったアルビノ殺害、襲撃、墓荒らしなどの事件をデータベース化していますが、ニャミゼゼ村にほど近いゲイタ州で2015年2月に1歳児が襲われてバラバラにされた事件以来、殺人事件は記録されていません(ただし、事件は報道されないことがあるため、リストは不完全です)。 

しかし危険は、別の場所で増大しています。  

隣国のマラウイでは2014年以降、少なくとも18人のアルビノが殺されました。マラウイ政府は、事件の急増の原因はタンザニアの運び屋の影響にあると非難しています。オティーノさんなどタンザニア国内の関係者が今も心配しているのは、保護キャンプや障害者学校などに取り残されたアルビノの子どもたちの将来です。彼らは今のところ安全ですが、いつかは施設を出なければなりません。  

彼はこの問題を「時限爆弾」と呼んでいますが、さらにこのような施設によって、長年にわたるアルビノ差別が助長されるという問題もあります。「この人たちは普通ではない、自分たちと違うなど、差別意識がさらに強くなってしまいます」と彼は言います。  

ロータリーの活動開始

ニャミゼゼ村からセレンゲティ平原をはさんで、数百キロメートル離れたメルー火山のふもとで、フェイ・クランさんはベランダに座り、彼女とロータリーがアルビノの人たちの支援を始めたころの思い出を語ります。

現在76歳になるクランさんは、第二次世界大戦中に英国に生まれました。子どものころに家族と一緒に東アフリカに引っ越してきて以来、アルーシャ州に住み、ひよこを販売する小さな会社を、タンザニアの大手養鶏会社にまで成長させました。公用語のスワヒリ語で「マカ・クク(にわとり母さん)」と呼ばれる有名企業です。彼女はロータリアンとしても、タンザニアで一、二を争う貢献をしています。モシ市のロータリークラブ会員として国や地区の委員長を務めただけでなく、9件のグローバル補助金と24件以上のマッチンググラントやクラブ合同プロジェクトの連絡担当者も担当しました。  

彼女はまた、1996年のウペンド・ハンセン病患者リハビリテーションと自立センター設立の際にも、大きな力となりました。このセンターはアルビノ同様に深刻な差別を受け、地域社会にいられなくなったハンセン病の人たちに、住居と支援を提供する施設です。

ロータリーの補助金は、タンザニアのアルビノの人を教育する地域イベントを支援しています。

クランさんがタンザニアのアルビノのために働きだしたのは、暴力の被害を実際に見た時からです。彼女は2011年にスコットランド、カーコーディ市のロータリークラブ会員のアラン・サティーさんと旅行した際に、暴力事件の被害に遭って左腕と右手を切断されたアルビノの少年に出会いました。少年は事件によって外見が損なわれただけでなく、心も深く傷ついていました。  

サティーさんはスコットランド盲人協会のCEOで、2014年に亡くなりましたが、当時すでに視覚障害のあるタンザニアの学生を支援する運動に参加していました。その中にはアルビノの学生もおり、彼はもっと運動を進めようと決心して帰国しました。  

彼のクラブは、クランさんなどタンザニア在住のロータリアンとのパートナーシップを通じて、アルビノの姉を殺された幼い少女の物語の絵本を制作を依頼しました。絵本は、タンザニア中の小学校に配布されました。  

この運動は2件のグローバル補助金など、多くのロータリー活動に発展していきました。補助金のひとつは、2013年と2014年にクランさんとサティーさんが主要窓口となって実施された「タンザニアの子どものための、視覚補助具提供とアルビニズムに対する意識向上」補助金です。もうひとつは、現在実施中の「タンザニアのアルビニズムの人々の生活変革」補助金で、クランさんと、イングランドのマーフィールド市のジョン・フィリップさんがリーダーを務めています。

その後の運動では、アルビニズムに関するほぼすべての分野を取り扱いました。  

いくつかの州で実施されたクラブ合同プロジェクトでは、アルビノの学生への支援策として、マットレス、蚊帳、視覚補助具、帽子、日焼け止めなどの提供や、僻地の融資付き自立支援プロジェクトなどを実施しました。  

視覚補助具への補助金を活用して、スコットランドからアルーシャ州のパタンデ教師養成学校に検眼医を招いて、検眼医を目指す地元の学生の研修を行いました。  

学校では研修後、視覚障害のあるアルビノの青少年に、検眼の実施や拡大鏡の提供の他、場合によっては望遠鏡レンズの推薦も行いました。  

現在の補助金は、教育を重点項目にかかげ、2015年後半から実施されています。活動内容としては、ニャミゼゼ村で実施したような地域出張イベントを70回以上開催したほか、アルビノと伝統医が協力して、多くの殺人事件をひき起こした迷信の撲滅運動も行っています。  

ロータリーではまた、医療従事者の研修や、医療機器の提供を通じて、がんの予防と治療に取り組んでいます。  

ロータリーはタンザニアの5か所の病院に、冷凍療法設備とフラスコ入りの液体窒素を提供しました。これらを使用すると、前がん病変が本物のがんになる前に効果的に除去できます。  

生検でがんの兆候の見られた患者は全員、ダルエスサラームのオーシャン・ロードがん研究所に紹介されます。タンザニア国内の支援団体であるタンザニア・アルビニズム協会と、英国NGO Standing Voiceは、治療費用の支払い期間を延ばす支援をしました。Standing Voiceは社会から取り残された人々を支援する非政府団体です。

ウケレウェ島に住むニーマ・カジャンジャさんは、18年間にわたって陶工の仕事をしていますが、ロータリーの寄付した道具を使って、もっと多くの陶器を作れるようになりました。

太陽の下で仕事をする

がん撲滅には、医療機関の利用拡大だけでは十分ではありません。  

ムガンガさんはニャミゼゼ村のイベントで、体をおおうことの大切さについて強調しました。しかしタンザニアのような熱帯の農業国では、多くの人は毎日、日光の下で何時間も土を耕し、苗を植え、雑草を取るなどの農作業をしています。そのため、屋内や日陰でできる仕事を探すのはとても困難です。  

ニャミゼゼ村のイベントでは、参加者の一人が「日差しのきつい時間帯には畑仕事をするなと言うなら、どうやって生きていくのか」と質問しました。彼はさらに、アルビノには目が悪いというハンディキャップがあるので、学校を卒業していない人が多く、屋内の仕事を得られるチャンスは少ないと言います。

この問題は、ビクトリア湖の東南端にある人口300,000人の島のウケレウェ島でも深刻です。この島はフェリーでしか行き来できず、よそ者はすぐにわかるので、殺人事件が多発していたころ、アルビノの間で安全な避難場所として噂になり、本土から何人も移住してきました。

人びとの間ではまだ、アルビノと関わりたくないという気持ちがあります。このため、たとえばアルビノ2人と、アルビノではない3人が参加するプロジェクトを実施できれば、もっと交流が進むのではないかと考えました 


モシ・ロータリークラブ

アルビノの人たちには、健康に害のない方法で収入を得るのが難しいという問題まであるのです。「この島の住民の80%は、農業か漁業に従事しています」と、この島の自動車修理工でタンザニア・アルビニズム協会ウケレウェ県議長のラマダン・アルファニさんは言います。「しかしアルビノにとっては難しい仕事です。日なたに長くいると、皮膚が変化してしまいます」

アルファニさんは、リンガリンガの巨木の陰で修理作業をしているので、他のアルビノも彼のような仕事をすれば、長生きして経済的に自立できると考えています。彼は、油のシミのついた赤い修理工の作業着を着て、グレーの古いトヨタ製ミニバンのエンジンにスパークプラグを取り付ける作業をしながら話してくくれました。

塗装用コンプレッサーなど、ロータリーの寄付した道具を数年前から使えるようになったため、客が増え、店を大きくして3人の従業員を雇えるまでになり、妻と息子を養えるようになりました。

タンザニア北部にはアルファニさんの他にも、ロータリーの補助金、融資、寄付などの恩恵を受けて、事業を行うアルビノが数十人います。  

アルーシャ州でロータリーは、ムガンガさんのNGO「アルビノ・ピースメーカーズ」との共同プロジェクトの一環として、裁縫の仕事をしているアルビノの女性たちに、ミシンを買う資金を提供しました。ムソマ市ではロータリアンたちが個人的に、アルビノの住民が最低一人は参加している小団体5カ所に小口融資を提供しました。融資を受けたアルビノたちはその後、家庭用品店・布地屋・美容室などの店を開きました。さらに彼らは、グローバル補助金から資金提供を受けて、起業のしかた、銀行とは何か、お金の仕組みなどを学習しました。

このプロジェクトでは、アルビノの収入を増やすだけでなく、人びとが彼らをビジネスパートナーとして受け入れやすくして、差別を減らすことも目指しています。「人びとの間ではまだ、アルビノと関わりたくないという気持ちがあります」と、クランさんは言います。「このため、たとえばアルビノ2人と、アルビノではない3人が参加するプロジェクトを実施できれば、もっと交流が進むのではないかと考えました」

活動の進捗

この自立支援活動のように意識の改革を伴う施策には、さまざまな困難がつきものです。

同じようにロータリーから道具の提供を受けたウケレウェ島の陶工、ニーマ・カジャンジャさんは、アルファニさんの場合と違って最近収入が落ちたと言います。その原因は、世間の景気が悪くなったことと、近所にあった市場が閉鎖したことです。彼女は太陽が照りつける長い道を歩いて、陶器を売りに行かなければならなくなりました。彼女の工房では、ロータリーが資金を出した窯は使われないままですが、その理由は不明です。彼女は土をこねて作ったつぼを焼く時に、いまだに原始的なたき火を使っています。

ムソマ市では小口融資プログラムの開始から1年間に、5件中3件のビジネスが立ち上げられ、スケジュールどおりにローンを返済しています。1件のグループでは、メンバーの一人が全資金を持って逃げたため、事業は失敗。もう1件では、タンザニア・アルビニズム協会の州議長だったリーダーが、皮膚がんで亡くなったために営業を中止しました。 

ロータリー会員のデオグラティス・イブンガ・ウェジナさん(右)は、ムソマ市で小口融資プロジェクトを運営しています。彼のプロジェクトは、美容室のオーナーのヘレン・ポールさんなど、アルビニズムの人々に役立っています。

しかし重要なのは、ムソマ市やウケレウェ島の起業家たちが、このような事業が差別の解消に役立っていると言っている点です。関係者の多くは、タンザニア全体で差別が減りつつあると考えています。  

クランさんによれば、アルビノを恐れて拒絶する人は少なくなっています。彼女の活動では人びとの考え方を変えるために支援をしてきましたが、2008年のタンザニア議会選挙で3人のアルビノが当選して議員になるなど、草の根の変化は着実に進んでいます。  

アルファニさんさんとヘレン・ポールさんは、ムソマ市で美容室を共同経営しています。二人は、自分たちがアルビノであっても、客に迷惑はかけていないと信じています。  

サーダ・カエマさんは、ムソマ市で融資を利用して籐かごを売っています。農村から来た客はあまり知識がないので、最初は彼女の店を避けがちですが、だんだんに買ってくれるようになると言います。この地域のアルビノの多くと同じように、彼女もまだ襲撃を警戒して、夜遅くに歩かないようにしていますが、昔よりずいぶん安全になったと感じています。

最初に紹介したニャミゼゼ村のイベントでも、意識の変化が進んでいることがはっきりと感じられます。広場には何百人もが集まり、「People Like Us(私たちのような人びと)」と題したビデオの上映を待っています。二人の年配者が、終わったばかりのワークショップで学んだことを語り合っています。  

村の警備責任者であるピーター・ミスングイさんは、この村では、殺人の原因となるような迷信を受け入れたことは絶対にないと、繰り返し言います。彼はさらに、「スング・スング(アリの軍隊)」と名付けた夜間警備パトロール隊95人で、いつもこの村のアルビノたちを安全に守っていると話します。「一人ひとりは小さいですが、皆が協力して戦えば、大きな力になります」

しかしアルビノの安全の問題については、ミスングイさんだけでなく、彼の友人でセブンスデー・アドベンチスト教会牧師のダウディ・マタガネさんも、セッションで初めて知ったことが多かったと認めています。  

ミスングイさんは特に、アルビニズムが両親から遺伝すると知って驚いたそうです。彼とマタガネさんはさらに、アルビノにとって日光が非常に危険だと気づいていませんでした。  

この新しい知識は、この村に住むアルビノであるセバスチャンさんと娘さんの二人にとって、大切なものとなるでしょう。  

マタガネさんは、セバスチャンさんについてこう語ります。「これからは、彼女が長い時間働き過ぎないように注意し、できる限り体をおおう服装をして、日陰にいるか気をつけます。お年寄りたちと同じように、彼女を守るためにできる限りのことをしようと思います」

あなたにもできることがあります

  1. 「シスター・マーサ」として親しまれているマーサ・ムガンガさん。若い頃に「呪われている」と言われ、数回自殺を試みた経験もあります。しかし、理解を通じて平和を培うという天職をもって以来、アルビノの人びとへの支援に人生を捧げています。 

  2. レヘマ・アブダラさん(左)とビジネスパートナーのズルファさん(右)。二人は、アルビノとそうでない人が共同で起業するためのロータリー補助金からの融資を受けて、雑貨店を営んでいます。このような事業は、アルビニズムの人びとが経営するビジネスに対する偏見をなくすことが狙いです。 

  3. タンザニア、アルーシャ州で母親・兄弟たちと住むデイビッド・ルクメイさんは、降り注ぐ太陽の下で庭作業をしています。「結婚したいか」という質問に対し、笑顔で「その前に家を持たなくてはね。妻はそのあとです」と答えました。デイビッドさんの兄弟のうち、アルビノは1人だけです。

  4. 美容室を共同経営するエリザベス・ジュマさんは、2008年に暴力事件が多発して以来、アルビノが安全に暮らせる場所を探していました。  

  5. 日光にさらされていたケフリン・クレモントちゃん。ケフリンちゃんのお母さんは、ロータリー補助金を通じて実施された地域住民への研修を受けるまで、日光の危険性を知りませんでした。  

  6. エリアス・チャチャさんの夢は、医者になること。彼は親元を離れ、アルビノの子どもを保護している寄宿制小学校で学んでいます。ロータリーはこの学校に44台のベッドと88のマットレス、保護用の帽子、日焼け止め、視力障害のある子どものための虫眼鏡を寄贈しました。   

  7. タンザニア・アルビニズム協会の会長を務めるラマダハン・アルファニさんは、機械工として働き、妻と子を養っています。