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出産ケアの改善で妊産婦と赤ちゃんを守る

乳児死亡率の高いモンゴルで、母子の健康改善のためにロータリー会員が率いるチームが医療従事者への研修にあたっています

記事

ニュージーランドで出産教育に携わっていた助産師ジュリー・ドックリルさんは、「安全な出産についてモンゴルの医療従事者を指導してほしい」という依頼をワイマテ・ロータリークラブ(ニュージーランド)から受けたとき、それが実際にどのくらいの効果をもたらすのかまったく予想できませんでした。

当時、ロータリーについても、モンゴルでの高い乳児死亡率についてもほとんど知りませんでしたが、「たった一人でも命を救えるのなら」と活動への参加を承諾しました。

モンゴルでの妊産婦・乳児の健康改善に尽くし、2021年の「世界を変える行動人:保健向上の推進者」として表彰されたジュリー・ドックリルさん(ニュージーランド、ティマルー・ロータリークラブ会員)。

あれから8年。このプロジェクトは期待以上の成果を上げています。現在ティマルー・ロータリークラブの会員となったドックリルさんは、2013年当時、この取り組みがモンゴル全体の医療体制で採用され、妊産婦・乳児死亡率を大きく低下させることになるとは想像すらしませんでした。

ワイマテ・ロータリークラブは当初、モンゴルの村に安全な水を提供する取り組みを計画していましたが、地域社会の調査の結果、現地の地勢が井戸の掘削に適していないことがわかりました。

ほかの取り組みを模索していたとき、現地のロータリー関係者を通じて、母子の保健と安全な出産のニーズがあることを知りました。そこで、ウランバートル・ロータリークラブと協力して、出産教育のために医療従事者を研修する職業研修チームを派遣する4段階のプロジェクトを立ち上げたのです。

同僚から推薦されてプロジェクトに参加したドックリルさんは、オーストラリア、モンゴル、ニュージーランドの5人の助産師から成るチームを率いることになりました。モンゴルの大学生、助産師、看護師などの医療従事者100人以上が使う研修資料も、ドックリルさんが作成しました。

モンゴルにおける妊産婦・乳児の死亡率は下がりつつあったものの、まだ非常に高いのが現状でした。2011年、モンゴル政府は、乳児死亡の割合を新生児1,000人中15人にまで削減することを目標に掲げました。これは、2009年の同国の乳児死亡の割合が新生児1,000人中27人であったことを考えると、大きな改善と言えます。同年のニュージーランドの乳児死亡の割合が新生児1,000人中わずか5人であったのと比較すれば、モンゴルでの問題の深刻さがわかります。

死因の多くは、窒息、呼吸困難、先天性欠損によるものですが、ドックリルさんによると、妊婦への不十分なケアが真の原因であると言います。

「出産教育コースが組み入れられる以前は、妊娠中の女性たちが病院に行って身体的なチェックをするだけでした。女性たちが得られる情報もごく基本的なものでした」

そこでドックリルさんは、それまで妊婦たちに説明されていなかった情報(喫煙、家庭内暴力、栄養、運動、母乳、避妊など)に焦点を当てました。これらは、妊婦の健康においていずれも重要です。母親が健康であれば、誕生後に赤ちゃんが健康に育つ可能性も高くなります。母親の健康と生存が、赤ちゃんが2歳まで生き延びる可能性に直接影響すると、ドックリルさんは言います。

何百人ものお母さんと赤ちゃんの命を救うためにささやかな役割を果たせたことを、とても嬉しく思います


ティマルー・ロータリークラブ(ニュージーランド)会員

そこでチームは、身体の健康だけでなく、「総合的なアプローチ」を通じて健康問題のある妊婦が早めに支援を得られるようにしたいと考えました。「研修によって一人でも赤ちゃんやお母さんの命を救うことができたなら、それだけで成功だと思いました」

研修を受ける人たちは、通常の授業を想定してノートとペンを持参しました。しかし、モンゴル語に翻訳された研修資料(ドックリルさん作成)を受け取った後に行われたのは、赤ちゃんの人形と解剖模型を使ったインタラクティブな演習でした。

出産プロセスを遅らせる手法についてドックリルさんが説明した演習では、参加者から多くの質問が出ました。通訳者によると、モンゴルではできるだけ早く出産を済ませるのが一般的です。しかし、分娩を早めることには危険も伴います。「出産時に妊婦が休憩を取るのは悪いことではなく、健康のためには辛抱が大切であると説明しました。そのことが新鮮だったようです」とドックリルさん。学生らは、新しい考え方に前向きで、熱心に研修に参加しました。ドックリルさんはこう言います。「素晴らしい経験でした。楽しみ、笑いが飛び交う中で、絆を深めることができました」

コースの最後には、学んだ知識の確認と、モンゴル保健相による修了証の贈呈式があります。「多くの参加者にとって、誇りと自信に満ちた瞬間」だとドックリルさんは語ります。

プロジェクトの成果、そして母子の健康におけるロータリーの取り組みに感心した彼女は、帰国後まもなく、地元のロータリークラブに入会しました。

  • 295000.00

    2017年に妊娠・出産の関連で死亡した全世界の女性の数(その多くが予防可能)

  • 20.00

    新型コロナウイルスが原因となる、母子の保健サービスとソーシャルサービスの低下

  • 3.00

    新型コロナウイルスに感染した妊婦の早産の可能性(感染していない妊婦との比較)

  • 8000.00

    新型コロナウイルス流行により定期予防接種を受けていない1歳未満の乳児の数

2015年、プロジェクトの第二段階では、ウランバートルにある病院で助産師として働くアマルジャルガル・ルブサンダグバさんがニュージーランドを訪れ、1カ月間、ドックリルさんの仕事に同行して出産医療の現場を見学しました。以来、ルブサンダグバさんは、世界各地の研修やセミナーにも出席し、そこで学んだ知識をモンゴルの同僚たちと共有しています。

2016年の第三段階で研修チームがモンゴルに戻った際、明らかにプロジェクトの影響が広く及んでいました。到着後、ドックリルさんは、少なくともモンゴルの半数のテレビ局が一行の訪問について報道したことを知りました。

メディアからの注目はウランバートル・ロータリークラブやモンゴル国内のそのほかのクラブとのパートナーシップがあったから、とドックリルさん。モンゴルのクラブ会員が現地での移動や翻訳といった手配を整え、政府当局にカリキュラムを紹介しなければ、プロジェクトの成功はあり得なかったと言います。

「プロジェクトで期待以上の成果を得ることができたのは、現地のロータリー会員たちの国内のネットワークのおかげです」

第三段階では、チームが3日間の出産教育コースと1日の緊急出産研修を実施し、産科医などの医師を含む医療従事者300人以上を指導しました。参加者らは、学んだことを現場でどう生かすかも話し合いました。このような話し合いが「プロジェクトを持続可能とするために重要」だとドックリルさんは言います。

チームはさらに、胎児モニター、ハンドヘルド式ドップラースキャナー、シリンジポンプなどの機器をモンゴルに運び、その使用に関する基本的な研修を実施しました。

2018年の第四段階では、現地へのフォローアップ訪問を行うと同時に、農村部やアクセスが難しい地域にプログラムを拡大。より多くの医療従事者への研修が可能となりました。

改訂した100ページの研修マニュアルは、モンゴル保健省から承認され、今では妊婦と乳幼児ケアの標準カリキュラムとして全国で採用されています。マニュアルには、予防接種、母乳による授乳、鎮痛、ダイエット、運動、医者を呼ぶタイミングといったトピックが含まれています。保健省はさらに、政府による新しい助成金プログラムの利用条件として、妊婦が出産教育について少なくとも3回の授業に出席することを義務づけました。2019年にはこの研修マニュアルがネパール政府にも採用され、現地語に翻訳されました。

このプロジェクトの成功により、モンゴル政府が2011年に掲げた目標(乳児死亡の割合を新生児1,000人あたり15人に削減)を上回る成果が上がりました。2019年時点の最新データによると、その割合は13.4となっており、さらに低下すると期待されています。

「世界保健デー」の4月7日、ロータリーは、ドックリルさんをはじめ、地元地域や海外における保健の改善に尽くした6人を、「世界を変える行動人:保健向上の推進者」として表彰しました。「こうなるとは夢にも思わなかった」とドックリルさん。プロジェクトの成功は、職業研修チームの仲間や支援してくれたロータリークラブのおかげだと言います。「何百人ものお母さんと赤ちゃんの命を救うためにささやかな役割を果たせたことを、とても嬉しく思います」

ロータリーは、恵まれない環境にある母親と子どもたちが質の高い医療を利用できるようにすることで、子どもたちの健やかな成長を支援しています。

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